01 患者さんの不安にじっくりと耳を傾けることから
プレコンセプションケアとは、妊娠前の健康管理を意味する。妊娠前の母体の健康状態は、母親自身の身体はもちろん、生まれてくる赤ちゃんにも大きく影響する。そのため、妊娠可能な年齢にあるすべての女性が、計画的に身体を整えていくことが望ましい。特に慢性疾患を抱える人は、胎児への影響が少ない薬剤への切り替えや不妊治療の早期開始など、事前の対策が重要となる。西村教授は「慢性疾患の患者さんにとって、病状が不安定な時期の妊娠はリスクが高いんです。病状が悪化したり、流産につながることもあります」と述べ、医療者による適切なサポートの必要性を説く。

こうした背景を受け、当院では2020年1月にプレコンセプションケアに関する取り組みを開始した。毎月1回、看護外来でリウマチ膠原病、IBD(炎症性腸疾患)、糖尿病などの患者さんを対象にケアを実施している。具体的にどのような支援を行っているのか。西村教授は「まず、患者さんの話を時間をかけて聴くことから始めます」と語る。ひとくちに慢性疾患と言っても病状は人によって異なり、妊娠に対する考え方や不安もさまざまだ。多くの患者が漠然とした不安で受診する一方で、妊活中など 「知りたいこと」が明確なケースも多く見られる。看護職者は、丁寧な傾聴を通じて、顕在化した疑問を整理しサポートすることができる。「今は私たちも患者さんから学ばせていただいている段階です。患者さんはこんな悩みを持っているのかと気づかされることも多いんです」。適切な情報提供はこうした対話から始まっていく。
02 看護職者の知識と実践力の向上にむけて
プレコンセプションケアに関する取り組みを開始後、西村教授は院内の看護職者を対象に調査を行った。慢性疾患患者をケアする看護師が、プレコンセプションケアにどのようなニーズを持っているかを明らかにする目的だ。その結果、多くの看護職者がプレコンセプションケアの必要性を感じている一方で、実際にケアを提供する自信がないと回答した。つまり、看護職者に対する十分な情報提供と教育が求められている。西村教授は「まずは知っていることが大事。看護職がプレコンセプションケアについて少しでも理解していれば、患者さんに思いを聞くことができます。でも、まったく知らなければ問いかけることすらできません」と話す。看護職者が医師や助産師と連携し、慢性疾患患者に対してプレコンセプションケアを実施している例は、現状ではほとんど見当たらない。そういう意味でこの取り組みは先進的であり、希少性も高い。今後は多職種で連携しながらプレコンセプションケアを推進していくことが課題だと捉えている。

西村教授は「学生の頃に実習で出産に立ち会い、赤ちゃんの産声を聞いたとき、魂がゆさぶられるような思いがしました。そのときに、この仕事で生きていこうと決めたんです」と自身の原点を振り返る。以来、「母性看護学」や「助産学」を軸に、看護職の視点から女性のライフステージと健康に関する研究に取り組んできた。また、「父親の産後うつ病」も西村教授の主要な研究テーマの一つである。妊娠・出産は女性の問題と捉えられがちだが、 家族コミュニティの生涯にわたるテーマ として、 男女を問わず、家族全員が日々健やかでいられるための支援のあり方を追求している。
PROFILE
兵庫医科大学 看護学部 看護学科 家族支援看護学 教授
西村 明子 AKIKO NISHIMURA
2010年に、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻博士後期課程修了。 博士(看護学)取得。
主な研究テーマは「母性看護学」や「統合失調患者の妊娠・出産」で、「父親の産後うつ病」などのメンタルヘルスを中心とした研究も行っている。




