「小児の神経筋疾患」と「先天代謝異常症」。 二刀流で子どもの遺伝性疾患に挑む日々 

01 【小児の神経筋疾患】 治療法がない難病に治療法を見つけていく道のり 

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は小児のうちに発症し、10歳を迎える頃には歩行困難になる。その後、呼吸障害や心機能障害を引き起こす重篤な疾患だが、根治的治療がないためその治療法の確立が切望されている。「診断ができても治療ができない。医療者として患者さんに深刻な見通しを伝えなければならないつらさがあります」。李准教授は大学院時代にDMDの治療法を研究する指導教授について以来、小児の神経筋疾患に携わっている。 

近年、この分野での遺伝子診断の技術が向上し、遺伝子レベルの治療も世界的に進んできた。李准教授はこれまで多数のDMD患者の診療や遺伝子解析を通じて、DMDの遺伝学的病態の解明に努めてきた。その結果を治療に還元するために臨床研究にも力を入れている。そして、ここ数年、DMDの新規治療開発に向けてグローバルな治験にも参加している。研修時代、この難病の治療法の概念を、「本当に現実化するのだろうか」と夢物語のように聞いていたという。時を経て、実際に患者さんに投薬する場面に立ち会い、「根治的治療がなかった難病の薬がこうしてできていくんだ」とその過程を感慨深く見つめている。2020年には国内で初めて治療薬のひとつが承認され、2025年にはDMDに対する遺伝子治療も承認される。DMD診療が変革期を迎えていることは確かだが、まだ患者の生活が劇的に変化するほどの治療法には至っていない。「診断した時に、すべての患者さんに『治療法がありますよ』と言える日を目指しています」と李准教授は先を見る。 

 02 【先天代謝異常症】 発症前に診断する新生児スクリーニングの方法を模索

李准教授のもうひとつの研究テーマは先天代謝異常症。「これは診断する側が『先天代謝異常症かもしれない』と考えなければ見つけにくい病気」と特徴を示す。たとえば、疾患のひとつである尿素サイクル異常症では、昨日まで元気だった子どもの意識が急になくなり、後遺症が残ることもある。一度の発症で重篤な症状に見舞われ、寝たきりになることもある子どもを診てきた経験から、「疾患を持っていることがわかっていれば、適切な治療で症状を抑えた生活を送ることができるのに」と発症前診断の重要性が心に刻まれた。 

そのために取り組んでいるのが新生児スクリーニングだ。頻度が比較的高く、重篤な障害をきたしうる尿素サイクル異常症を新たにスクリーニングの対象に加えられる方法を研究している。そこでシトルリンという物質に着目。兵庫県内の約100か所の分娩施設に協力を依頼し、4年間に渡り10万人以上の新生児を対象にパイロット研究を実施した。その結果、1名の遅発型CPS1欠損症を発症前に発見し、シトルリンの値がスクリーニング指標となる可能性に行き着く。当院だけでなく、全県の周産期施設や検査施設および行政と連携できた取り組みの意義も大きい。 

この方法は既に行われている検査体制に組み込むことができる。今後、実装されるためにさらに精度を高めていくなど超えるべきハードルはあるが、「発症前に介入することで患者さんの予後が大きく変わる」と、研究の成果を還元する日を待ち望んでいる。 

PROFILE

兵庫医科大学 医学部 小児科学 臨床准教授

李 知子 Tomoko Ri

李 知子

神戸大学医学部卒業。専門分野は小児科一般、神経筋疾患、先天代謝異常症、内分泌疾患、臨床遺伝。「子どもたちとその家族に寄り添って」をモットーに、小児期発症の神経筋疾患・先天代謝異常症・内分泌疾患を研究テーマとしている。

日本小児科学会 指導医・専門医、日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医・指導医、日本小児神経学会 小児神経専門医。