01 調査で明らかになる高齢者の健康格差
これからの日本の高齢化社会の問題は「高齢者の高齢化」だという。85歳以上の割合が増え、それに伴って要介護者が増えてくる。フレイルは介護要因の上位項目に上がるため、その予防と対策は健康寿命の延伸につながる重要なテーマだ。
健康な状態と要介護状態の中間を指すフレイルという用語は、高齢者を中心に少しずつ知られているが、まだ十分に社会に浸透していない。永井准教授は兵庫県内の複数の自治体と連携し、フレイルに関するさまざまなことを多面的に研究している。たとえばある市内に住む高齢者の調査では、フレイルという言葉の認知度を始め、食生活や運動習慣の傾向、各人の幸福度などを多数の質問から導き出している。その結果、同じ市内でもエリアによって違いがあることが明らかになり、行政はそのデータをもとに地域別に施策を講じることが可能になる。また、別の市では体力測定、骨密度分析、生活スタイルなどの調査を行い、どのような因子や属性がフレイルに関与しているのかを明らかにしようとしている。
今、健康に対する興味がある人とそうでない人の実態に差が出る「健康格差」が広がっている。実際、地域の健康づくりの場(通いの場)に出てくる人たちは高齢者全体のわずか6%。そのうちの8割は女性で、男性は2割程度。特に独居の男性は健康増進への意識が希薄だという。「健康格差をなくすためには情報を受け取りにくい人へアプローチすることが大切。そして、そのための仕組みづくりにはエビデンスが必要です」と永井准教授は研究の目的を語る。

02 住民の主体性を尊重し、伴走役に徹する
永井准教授は研究活動と並行して実践活動にも力を入れている。研究で根拠を得て実践に活用し、実践で事例を得て研究に取り入れる循環だ。神戸市中央区との連携事業『サポーター養成講座』では、10年に渡り、地域の健康づくりを支える住民を育成してきた。また、最近は積極的に住民の生活の場に入っていこうと、スーパーマーケットにブースをかまえてフレイル予防を伝えている。さらに、2025年からは健康づくりの場に出て行きにくい人へのアプローチとして通信講座を開始した。対象者に毎月資料を送り、記入後に返送されてきた回答用紙を分析してアドバイスを書き込む。年に2回、オフ会を開催し、顔を合わせる機会もあるという。引きこもりだった人がこの講座に申し込み、家族が喜んだというエピソードもある。
実践活動において永井准教授が大切にしているのは、住民の主体性を奪わないように関わることだ。運営側が手取り足取りサポートすればするほど住民は受け身になる。そうすると続かない。まずどうしたいのかを聞き、そのための方法を支援する姿勢がよいと言う。指導者というより伴走者。それは学生教育へのスタンスと同じだ。
最近、地域の講演会では「フレイルになっても大丈夫ですよ」というメッセージで締めくくっている。フレイル予防を追求していくことは大切だが、一方で、それはフレイル状態にある人を否定することにもつながるからだ。大切なのはどのような状態であっても、その人が自分らしく暮らしていけること。そのためにどのような支援が必要なのか。永井准教授の研究と実践は次のフェーズにさしかかっている。

PROFILE
兵庫医科大学 リハビリテーション学部 理学療法学科 地域理学療法学 准教授
永井 宏達 Kotatsu Nagai
専門理学療法士。臨床でのリハビリ指導を経て、研究職へ。京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻博士課程修了。現在は「兵庫医科大学健康づくりサポーター養成講座」をはじめ、芦屋市、洲本市、丹波篠山市の介護予防事業など、活動は多岐に渡る。




