薬にはドラマがある。地道な実験が切り拓く、創薬の世界

01 抗マラリア薬、抗難治性アレルギー薬の研究 〜アフィニティ樹脂を用いたターゲット探索〜

医薬品の多くは、特定のタンパク質に作用することで治療効果を発揮するため、創薬研究ではその標的を見出すことが重要となる。馬渕助教は、まず効果のある化合物を見つけ、その作用の仕組みを後から解明していくアプローチで創薬に取り組んでいる。その鍵を握るのが、馬渕助教らが開発した「アクアファーマス」というアフィニティ樹脂だ。この技術は、無数に存在するタンパク質の中から目的の標的を特定するーいわば「広大な砂場から、たった一つの小さな落とし物を見つけ出す」ような極めて困難な探索を可能にする画期的なものであり、従来の樹脂より高い成功率で特定できる点に特徴がある。現在、この技術も活用して抗マラリア薬や抗難治性アレルギー薬の研究を進めている。抗マラリア薬は、ある研究機関で見出された有効な化合物に対して標的を同定し、化合物の活性向上の展開とともに、作用機序※1や薬物動態※2の研究も重ねてきた。現在は国内外の創薬支援機関や研究ネットワークと連携しながら(写真)、実用化に向けたデータの蓄積や議論を進めている。

馬渕助教は「400近い化合物を創生して絞り込んでいくプロセスには多大な根気が必要だった」と振り返る。創薬において、基礎研究から実際の開発段階へ進むプロジェクトは数少ない。その中で本研究は幾多のハードルを越えて「次のステージへとバトンが繋がれたプロジェクト」として、馬渕助教が特に力を注ぐテーマの一つになっている。

※1:作用機序:薬が効く仕組み
※2:薬物動態:薬が体内で吸収・分布・代謝・排泄される過程

02 人の命を救うのは薬、という信念を持って

馬渕助教は製薬企業の研究所に在籍していた頃から、一貫して創薬研究に携わってきた。「うれしいのは、化合物評価でポジティブな結果が得られたときや『よし、これでいける。前に進められる。』と思える瞬間ですね。」と話す。一方で、そうした成果は簡単に得られるものではない。「世界中の人々の英知や努力、セレンディピティによって生まれるのが薬です。薬にはドラマがあります。」と語り、地味で膨大な実験と考察の積み重ねの先に生まれる一筋の光に思いを馳せる。「抗生物質が感染症治療を大きく変え、免疫抑制薬が臓器移植を可能にしたように、薬が人の命を救い、人類の寿命を延ばしてきたのです。」と、薬に携わる仕事に誇りを持つ。
また、創薬研究は一人で完結するものではない。「チームと信頼が不可欠」と強調する。異なる専門性や考え方を持つ研究者たちが議論を重ねながら、有効性と安全性を兼ね備えた薬を目指していく。その過程には、実験には直接関わらないが、広い意味で研究を支える人たちの存在もあり、馬渕助教は感謝の気持ちを口にする。

創薬の道のりは長く、ひとつのテーマが完結するまでに30年近くかかることもある。しかも長い年月をかけた研究が、すべて新薬として実を結ぶわけではない。「実際に薬になるものはほんのひと握り。私の仕事は目の前にある薬になる可能性を秘めたテーマをできるだけゴールに近づけていくこと。」と、自身の目標を静かに言葉にする。

PROFILE

兵庫医科大学 薬学部 医療薬学科 助教

馬渕 美雪 Mabuchi Miyuki

馬渕 美雪

金沢大学薬学部卒業後、藤沢薬品工業 新薬研究所(2005年よりアステラス製薬 薬理研究所)に勤務。同社在籍中に京都大学にて博士号を取得。2008年より兵庫医科大学薬学部に着任。研究テーマは、創薬、アフィニティ樹脂を用いたターゲット探索。