公認心理師として、患者さんの思いに寄り添いたい 

01 背水の陣で大学院を再受験 

大学では心理学を専攻していました。学んだことを仕事に生かしたい。そんな思いから臨床心理士を目指しましたが、その資格を得るには大学院への進学が必須でした。当時、大学院入試は私にとって狭き門。受験はうまくいかず、一度その道を断念しました。 

その後、民間病院に就職し、精神保健福祉士(PSW)として働き始めました。精神疾患のある方々を主に生活面からサポートする仕事です。さまざまな患者さんと関わるなかで、厳しい現実を目の当たりにしました。特に印象に残っているのが、長期入院を余儀なくされる患者さんたちの姿です。家族に病気を理解してもらえない。子どもにも会えない。退院したくても帰る場所がない。そんな患者さんたちに、病気の治療だけではなく、人生や思いに寄り添う存在が必要だと感じるようになりました。そうした役割を担えるのが心理士ではないか。そんな気持ちが次第に強くなり、もう一度大学院を目指そうと決めたのです。今振り返ると、かなり大胆な決断だったと思います。大学院に合格する保証がないなか、先に職場へ退職願を出してしまったのですから。とにかく前に進むしかない。そんな背水の陣で臨んだ再受験でした。

02 応援する気持ちで患者さんに寄り添う

大学院を修了後、兵庫医科大学病院に入職して今年で14年になります。現在は公認心理師として、日々患者さんの支援に携わっています。専門としているのは強迫症です。強迫症とは、強い不安や違和感を和らげるために、確認や手洗いなどの行動を繰り返してしまう病気です。典型的な例として、何度も手を洗う、鍵を閉めたか何度も確認するなどの症状があり、重症化すると日常生活に大きな支障をきたします。主な治療法は薬物療法と認知行動療法で、私は認知行動療法において、年間1000件ほどの心理面接を行っています。認知行動療法では、不安から繰り返してしまう行動を少しずつ減らし、「(行動を)止めても問題は起こらなかった」という体験を患者さんに積み重ねていただくのですが、患者さんの多くは「なにか大変なことをやらされるのではないか」と不安に思いながら来院されます。そのため、最初に病気のことをわかりやすく説明し、理解して納得していただいたうえで、取り組むかどうかを患者さん自身に決めていただきます。 

医療者にとっては病気を治すことが目標ですが、患者さんの目標が必ずしも同じとは限りません。対話しながら患者さんの気持ちを推し量り、ご自身のペースで進めるよう応援する気持ちで向き合っています。 

03 仕事は多くの人に支えられている

こうした臨床経験をもとに、日本不安症学会と日本神経精神薬理学会が合同で編纂した『不安症・強迫症診療ガイドライン』の作成にも携わらせていただきました。日本初となる強迫症のガイドラインです。これまでに発表された数多くの論文や治療データを整理するなかで、強迫症にはどのような治療法があるのかを、臨床現場の感覚だけでなく理論的に知る貴重な機会となりました。病院医療はチームで成り立っています。他職種と連携するなかで、自分の仕事も多くの人に支えられていると実感しています。ひとりでできることには限界があります。ガイドライン作成への参加も、日頃の仕事を見てくださっていた方とのご縁から生まれた機会でした。本当にありがたいことだと感じています。そんなこともあってか、最近は少しお坊さんの説法のような話し方になってきていますが(笑)。今後も臨床の場で患者さんによりよい支援を提供するとともに、何らかの形で後進の育成にも関わっていきたいと思っています。生きている間に宇宙へ行くという夢もありますし、公私ともに後悔のないよう挑戦していきたいですね。  

PROFILE

兵庫医科大学病院 臨床心理部 課長 公認心理師

吉田 賀一 Yoshida Yoshikazu

吉田 賀一

追手門学院大学人間学部心理学科卒業。民間病院にて精神保健福祉士(PSW)として働いたのち、佛教大学大学院教育学研究科臨床心理学専攻修了。2012年、兵庫医科大学病院に入職。公認心理師として、特に強迫症に対する認知行動療法を専門とする。趣味は旅行。先日は長年貯めたマイルを使ってロンドンへの旅を楽しんだ。